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大学の歴史学科って何を学ぶの?

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史というと中・高校で学ぶ日本史/世界史を思い浮かべる人が多いと思います。

学習方法は主に暗記で、一夜漬けでも何とか点はとれてしまったり、それ故に楽しみどころが分からず学習意欲を削ぐ科目になりがちだったかもしれません。

けれど大学での歴史はそんな予定調和とは真逆の、理系的な視点も試される学問です。

 

今回は実際に大学の歴史学科(史学科)で学んだ筆者が大学ではどんな歴史を学ぶのか、

その学び方や授業構成などについて、体験談をもとにありのままに書いていきたいと思います。

大学や時代専攻などによって多少の違いはあると思いますが、なんとなくでも学問としての歴史について想像してもらえる機会になれば幸いです。

 

 

史学という学問

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歴史学とは、

現在に残っている、または新たに発見された史料(歴史的資料)から、

当時の生活や人々の思想、社会がどんな様子だったのかを客観的な考察によって組み立て、歴史的事実を追求していく学問です。

史料とは紙、石、衣類、木簡、各媒体のデータ(映像、写真、絵画、新聞、音声)など、過去の断片を現在に残しているもので、歴史的な考察に必要なものであれば物質の種類は問いません。

史料のなかには手紙・文書・日記などの「一次史料」と、それ以外の「二次史料」があり、

当時のポジショントークなどによって事実が隠れてしまう恐れから、信頼できる史料のレベル分け(?)をしています。

ほんの一例ですが、外交官として公的文書に記録されたAさんの語る内容と、Aさんが実際に筆をとって書いた日記の内容と、どちらが当時の事実に近いのかという問題がありますよね。

 

このように歴史学は『学問』であるため小説や映画などの想像や脚色は許されません。

論じるからにはエビデンスが必要で、当然いくつもの史料を基に自分の考えを展開していかなければならず、

「この時代が好きだから」「この人物が好きだから」

という気持ちで偏った考察をするわけにはいかないのです。

もちろん「好き」という気持ちが「知りたい」という気持ちを突き動かすので気持ちも大事です! 

▼こちらの記事ではその「気持ち」から入る歴史について書いています 

musicwordscloset.hatenadiary.jp   

料批判と実証主義

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現在の歴史学史料批判実証主義のもとに行われる学問です。

料批判とは先ほどの外交官の例であげたように、どちらの史料がより正しい(当時に近い)のか、複数の史料を比較して検証していく作業です。

Zという事象が実際にあったかどうかを調査するにあたりXやYという史料を突き合わせて比較し、どちらがより正しいかを調べます。

 

証主義というのは読んで字のごとし。

科学的に(数字や史料から)実証されるもの以外、歴史的事実として安易に取り扱わないという基盤のもと歴史学は学ばれています。

ただ今日においては実証主義オンリーで研究を重ねていくことには批判も出てきているようで、もっと広い視野や多くのアイディアを使って歴史的事実を構築していくことも推奨されているようです。

 

個人的に歴史学は事件の「推理」にとても似ているように思います。

様々な物的証拠や人々の言葉を集め、そこに矛盾や偽りがないかを精査し、当時の犯行現場や容疑者/被害者の実態を組み立てていく。

想像だけで犯行や容疑者を決められないように、あらゆる証拠や多方面のエビデンスが必要になるわけです。

歴史学科は文系を代表するような学科でもありますが、意外にも数字や論理的な思考が必要で、中高の勉強とはまったく違う学びがあるのです。

 

際に学んだこと

ここからは実際に筆者が学んだことについて、代表的な科目をかいつまんでお話したいと思います。

 

 
◆個人研究(ゼミ)

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それぞれ専攻の教授につき、ある程度の国や年代によってミクラスが分けられます。

私のゼミは8~9人の西欧中世期クラスで、週一回2~3人が研究成果を発表していました。

一人の持ち時間はおよそ20~30分。

発表が終わると教授やゼミメンバーからの質問に答えます。

この質問は、同時代を学んでいるメンバーから投げかけられるため、なかなか質の高い質問で(泣)適当にかわしたりすることは不可能でした(当たり前)。

質疑応答のあとに今後の研究予定などを伝えて終了となります。

あんまり真面目じゃなかった私には、このペースけっこうつらかったなぁ(涙)

 

ただ、間違いなく言えるのは

早い段階で何を知りたいか、何を追求したいかを決めておく方が何かとお得だということ。

それだけで史料を読み解くための第二言語にも集中できるし、関連する書籍を外部から取り寄せたりと、卒論へしっかりとした準備ができます。

せめてある程度の時代(というより期間)、大まかなテーマだけは決めて、あとから微調整してテーマを絞っていった方が建設的だと思いました。

実際私は、

アジア圏と西欧の女性史比較→

西欧中世期の女性は神話の女性をどう見ていたのか→

女性領主アリエノール・ダキテーヌの再評価→

中世初期の城壁→

【結果】中世初期の都市の成り立ち(ローマ帝国滅亡後、各都市はどうなったのか)

という、とんでもない回り道をしてしまい痛い目を見ました… 


◆各史概論

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各国の歴史の概論や、一貫したテーマの概論を選択します。

私は、高校までの知識では足りないと思っていた西欧の近代史、及び世界大戦に関連する講義をとりました。

近代史はセンシティヴな内容のため義務教育の範囲ではどうしてもスルーされがちですが、現在を生きる私たちには一番大切な内容なので、学んでおいた方がいいと個人的には思います。

また高校まではバリバリ日本史漬けだったので、世界史を総体的に復習するという意味でも積極的に履修していました。

 

◆宗教史

世界の宗教の起こりや発展、宗教における歴史の流れを学びます。

キリスト教イスラム教などメジャーな宗教のほかにも、ゾロアスター教や各地発祥の宗教、また個人の思想という観点から哲学などの分野についても触れる機会になりました。

 

個人的に宗教史は

無宗教国家だからこそ学んでおいた方がいい

と思います。

ほとんどの日本人は、ある意味これ以上ないぐらい宗教をフラットに捉えることができるという下地があるので、多様な見方が生まれるというのも魅力です。

一方、八百万の神などのアミニズム信仰天皇を神の系譜とする天孫降臨神話が互いに独立している(=日常の営みにおいて両者の序列が曖昧)という日本独自の宗教観も

世界のなかではどれだけめずらしいことか、この国のガラパゴス精神について深く考えさせられる機会となりました。

 

◆美術史

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各時代の権力者との結びつき(パトロン)から、大衆エンタメ、宗教伝播のツールと、幅広く歴史事象とつながっているので、歴史に興味がある方は学んでおいて損はないです。

また当時の世相を如実に表している(また当時の現象を強く否定した作風=いわゆるその逆が事実)作品も多いので、史料観察としての視点も鍛えられると思います。芸術家は嘘がつけないし、そこが好き♪

 

第二外国語

史学科では史料を読み解くために研究対象の分野に合った言語を選択をすることが多いです。

マイナーな分野であればあるほど現地の出版社でしか取り扱っていないテーマもあるので、ある程度の研究主題が決まっていないと早期選択が難しかった記憶があります。

主に、ギリシャ語、ラテン語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、ロシア語、ポルトガル語、中国語、韓国語、アラビア語などから選択することが多いかな。

 

◆文学

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主にフランス文学とアジア文学を学びました。

なるべくフランス語にふれておいた方が自分の研究分野では得だったということと、毎日が事実、史実、事実…の繰り返しでフィクションストーリーに飢えていたというのもあったので。

 

けれど意外に文学からヒントを得られることも多かった。

韓国文学の地獄に関する物語(題は忘れた)について学んでいたときでした。

地獄の王(日本でいう閻魔王)が紫の衣を着ている描写があり、

お、上級階級が纏う色は日本と同じだったの?

と思い、それからは自分の研究分野でも配色について注目するように。

色がついていないことが前提の史料とばかり顔を突き合わせていたので「当時の色」という観点がごっそり抜けおちていたんですね。

もしかしたら色に定義された意味づけというものは、ローマ帝国滅亡後の宙ぶらりん&諸侯台頭の時代でも、共感意識として西欧全域に残っていたかも…と考えるようになりました。

結果的に思ったような成果は出せませんでしたが、刺激的な視点をもらえたので選択して良かったなと思っています。

 

史を学んでよかったこと

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個人的に歴史を学んでよかったことはこんな感じ。

  • 世界や身の回りへの視野が広がる
  • 旅好きになる
  • 生涯学習にしやすい
  • 今を生きることに冷静になれる

やはり視野は広がると思いますし、世界への興味は持ちやすくなると思います。

そうなると次は実際にその土地や人を感じてみたくなりますし、同じ価値観を見つけられれば彼らが対峙している問題にも無関心ではいられなくなるものです。

私は自分が知識欲の強い人間だと早くから分かっていたので、生涯学習としても需要が続くということも良かった点でした。

 

また歴史と向き合っていると、現在世界で起きていることやこれから起こりそうなことをほんの少しだけ俯瞰で見つめられる瞬間があります。予見やスピリチュアルな話ではありません(笑)

起きることが分かるというより、起きるかもしれない事象に対して感情の備えができるという感じでしょうか。

今置かれた現状だけに囚われたくないという信念はできたように思います。

と言いつつ、今回のパンデミックではしっかりパニくりましたが(涙) 

 

学びは疑問批判から。これは歴史学でも同じことで、

今見えたり感じていることに、何らかのフィルターや権力の価値観がかかっていないか見極めることはとても大切なことです。

そうやって目をこらした中にこそ信じられる数や物質、記述はあり、そこに先人たちの「生」が宿っていると思うと、

人として生きることはどうあるべきで

自分は未来をどう描くべきか

そんなことを自然と考えるようになります。

 

歴史学は生きていくうえで即戦力になる学問ではありません。お金にもなりません。

ですが世界や他者への責任(つながり)を感じ、悲観にも楽観にも囚われず未来へ前進する力を得られる、とても誠実な学問だと強く感じています。

 

今回の記事で少しでも歴史学の魅力を感じて頂けたら嬉しいです。

ここまでお読みくださりありがとうございました。

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