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作家 須賀しのぶ をもっともっと有名にしたい

紺碧の果てを見よ

 

最近の世の中は推しだらけ。良い意味で。

かく言う私も音楽や俳優、芸人や歴史上の人物など、推しだらけの生活を堪能中であります。

 

今回は数ある推しのなか、今わたしが一番に推したいと思う、

作家の須賀しのぶさんとその作品の良さについてまとめました。

shosetsu-maru.com

 

特別お題「わたしの推し

 

作家 須賀しのぶ

 

経歴

日本の小説家。1972年生まれ、埼玉県出身。

1994年に『惑星童話』で上期コバルト・ノベル大賞の読者大賞を受賞し、ライトノベルを中心に作家業をスタートさせます。

2007年『スイート・ダイアリーズ』から一般文芸作家に移行。

 

コバルト文庫時代に執筆した作品でもとくに『キル・ゾーン』や『流血女神伝』『アンゲルゼ』シリーズは、いずれも長編大作として今でも人気があります。

 

代表作・受賞歴

 

コバルト時代の少女冒険活劇に見られるように、なかなか骨太でハードな内容が多い須賀作品。

 

その一方でハードさの裏付けになるような歴史的背景や人物描写については、とても詳しくしっかりと描かれます。

一度読んだら、その世界観、そしてそれぞれの登場人物たちを簡単に忘れることはできないでしょう。

近年ではその作風が評価され、様々な文学賞にも名前があがるようになっています。

 

【2010年】

『神の棘』第13回大藪春彦賞候補

第二次世界大戦下のドイツが舞台。

戦時中の信仰とは何を意味するのか、子ども時代を共にしたナチス親衛隊SS(元いじめられっ子)と司祭を志す宗教者(元いじめっ子)の二人の若き男性の目線で交互に語られます。

大藪春彦賞…主にハードボイルド・冒険小説に与えられる賞

 

【2013年】

『芙蓉千里』シリーズ センスオブジェンダー賞大賞受賞

明治42年、「大陸一の売れっ子女郎になる」ことを夢に、ハルビンにやってきた少女が主人公。

他作品同様、須賀作品の少女を甘くみてはいけません。

★センスオブジェンダー賞…広くSF/ファンタジーの文学、漫画、映像作品からとくにジェンダーをテーマに探求した作品に贈られる賞

 

【2016年】

『革命前夜』第18回大藪春彦賞受賞、第37回吉川英治文学新人賞候補

世界が東西に分かれようとする冷戦下、日本人の主人公は音楽留学でドイツの地へ降り立ちます。

一つの国が二つに分かれ、人々が分断されるまでの数年間を美しいクラシックピアノの音色をバックに熱く描かれています。

吉川英治文学賞…1980年から続く吉川英治国民文化講演会主催、講談社後援による文学賞。とくにジャンルは決められておらず、新人賞は実質中堅以上の作家が選考されます

 

【2017年】

『また、桜の国で』第156回直木賞候補、第4回高校生直木賞受賞

第二次世界大戦下のポーランドが舞台。日本とロシアの血が混じる男性が主人公。

ご想像のとおり目を背けたくなる展開も待っていますが、その分得られるものも大きな傑作です。

人間が生きる意味、絶望を繰り返してもなお暴力に「抵抗する」ことの意味を、ワルシャワ・ゲットー蜂起に映していく凄まじいパワー。

一つの国、そして一つの民族が、世界から見放されるというやりきれない現実。

ぜひショパンの『革命』を聞きながら、当時の人々に思いを寄せてもらいたいです。

直木賞…主に大衆性を重んじた作品が多く選出される歴史ある文学賞の一つ。

 

ちなみに、この作品は高校生直木賞大賞に選ばれた作品で、そのことも個人的にとても嬉しかった思い出深い一冊だったりします。

www.shodensha.co.jp

 

~注目したい高校生直木賞

 

高校生直木賞とは…

直近一年間の直木賞候補に挙げられた作品から最終5~6作品のうち、最も優れた賞を高校生が選出します。

koukouseinaoki.com

 

フランスの高校生による文学賞ゴンクール賞にならって2014年に創設されました。

現在は参加高校を公募し、文部科学省後援のもと運営されています。

www.academiegoncourt.com

 

 

~高校生直木賞これまでの主な受賞作品~

2016年『ナイルパーチの女子会』柚木麻子

2019年『熱帯』森美登美彦

2020年『渦』大島真寿美

2021年『雲を紡ぐ』伊吹有喜

 

次世代を担う高校生を選考委員にした文学賞で、本屋大賞に次ぎ近年熱い注目を浴びています。

須賀さんも受賞した際にはとくに喜びの声をあげていましたし、みずみずしい感性を持ち続けたいと願う作家さんにとってはとても名誉ある賞ではないでしょうか。

 

作品の特徴

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ど★シリアス

須賀作品はただのシリアスではない「ど」シリアスな色が強めです。

壮絶な歴史を舞台にしている(革命/戦中)ことも多いため、ほんわかエピソードや行間でふんわり伝えてくるようなタイプの作品は少ないのも特徴。

 

例外でいうと「甲子園」など野球ものは、青春の輝きを全面に出しているものもあります。

文体の好みなどをチェックする場合は『雲は湧き、光あふれて』のような青春ものから読んでみるのもいいかも。

YA世代に愛される集英社オレンジ文庫から出版。もちろん大人でも読みごたえばっちりで、ルールに詳しくなくても途中から涙腺はやばめ。

短編続編『エースナンバー』『夏は終わらない』との三部作です。

 

主人公周辺が常にハードモード

 

須賀さんの書く物語は登場人物にいっさいの容赦がありません。

「こんなのどっちも選べるわけない……(絶望)」と思わず読み手の顔さえ歪むような選択を迫られ、それでも彼らはもがきながら過酷な現実を生き抜いていきます。

加えて追われたり隠れたりと、ステルス的ミッションも多くその緊張感たるや相当なもの。

何度キャラクターと一緒に歯をくいしばり、そのたびに奥歯が痛くなったことか…

 

なかでも『神の棘』第二次世界大戦下のドイツが舞台ということもあり、つらく苦しい展開が続きます。

 

 

万人におすすめできる内容ではないけれど、【戦争と宗教】あるいは【戦争期に神を信じるその意味】について興味がある方は読んでみて損はない傑作です。

自分で「本のマイベスト」を決めるとしたらトップ10に入るお気に入りなので、いつか『神と棘』単体でも記事を書きたいと思います。

 

緻密な歴史描写

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須賀作品は現実の歴史を舞台にすることが多く、作品ごとにその国や時代が変わります。

とくに近現代史では、前述した世界大戦下のドイツ、エカチェリーナ二世による帝政ロシア、日清~日露戦争の中国、東西冷戦下のドイツなど、かなりセンシティブで混沌とした舞台が多めです。

 

そのため各時代の知識や情報の精査などがしっかりされていて本格的である一方、これがとても読みやすい。

例え歴史に詳しくなかったとしても、人物で読ませていくスタイルなのでそこまで支障もないように思います。

 

▼『革命前夜』は東西ドイツ期に東ドイツへ音楽留学した日本人を主人公にした物語

 

また、国同士での対立描写が多い近現代史では、登場人物がどこ出身」で「何人と定義されている」かも、重要な要素になります。

だからこそ、その区別をも越え、互いに交わりながら過酷な時代を乗り越えていく様には何度も胸を打たれるんですよね。

 

著者が繰り返し、出身地やルーツについてひと捻り加えた人物を主人公に据えるたび、

まるで「そんなこと(血や貴賤の違い)関係ないんだよ」と訴えているようで、それが活かされた人物設定や友情シーンはとても印象深く感動的です。

 

とくに『また、桜の国で』では、日本とロシアの間に生まれた外交官を主人公にし、その友人に元ポーランド孤児、そこに生粋のアメリカ人記者が加わるなど、

当時の情勢をカオス的に取り込んでいるにも関わらず、興味をひかれたら最後、ぐいぐいと読ませる見事な人物設定でした。

 

 

勝手に須賀さん作品でレーダーチャートを作ってみました。ご参考のほど。

 

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読みやすさは、歴史的な内容というより歴史そのものに拒否反応がある方にはきついかな…と思い5に。

認知度については、出版業界ではかなり有名な作家さんだと思いますが、一般的にというとどうかなと思ったので3にしました。

 

あとがき 読後に残る美しい光

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この記事を見てなるほどなと思ったのですが、須賀さんは子どもの頃に三国志にハマっていたようです。

作家の読書道 第126回:須賀しのぶさん - 作家の読書道

 

何がなるほどな、だったかというと、私が須賀作品を読んでぼんやりと感じていたのが「女流版北方作品」ということでした。

もちろんこれはだいぶ乱暴な表現でして、両者質感やスタイルはまったく違います。

ですが「いっさいの甘さなく、芯までハードボイルド」という点に関しては、北方作品を上回っている気さえする(北方作品は浪漫も含んでいますので…)ほど、ジャンルとしては類似しているのです。

 

一方で、コバルト文庫あがりならではの青春のような情熱が根底にあること、

いっさいご都合主義にならない登場人物たちの持つ緊張感、人が時代を動かしていく臨場感などは、須賀作品の大きな特徴です。

どちらにせよ、男性作家中心の分野になりがちだったハードボイルド作品の新たな選択肢になることは間違いないでしょう。

 

さて、これまでハードな面ばかりをご紹介してきましたが、最後にとっておきの須賀作品の魅力をお伝えして結びにしたいと思います。

それは読後感に残る言葉にならない救いの描写です。

この救いは、最後の1ページに辿り着くまで登場人物たちと共に悩み、苦しんできた分だけ強く美しく輝き、おそらく一生忘れられない情景となって読者の心に残るはずです。

 

「歴史に興味がある」

「骨太なストーリーが読みたい」

「現実的なラストでも感動したい」

 

という本をお探しの方。

混沌とした現実社会でも人が生きることを全肯定したい方。

 

ぜひ一度須賀しのぶさんの作品をお試しください。

 

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ここまでお読みいただきありがとうございました!

今後もインドア趣味を中心に、楽しいことや学べることについて書いていきたいと思いますので、お時間があるときにおつきあい頂ければ嬉しいです♡

 

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