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っぱ、夏は美術館でしょ!久しぶりの美術館【芸術家たちの南仏】で感動した話。

                             宇都宮美術館HPより

 

なかなか久しぶりに美術館に行ってきた。

つい数年前までは一シーズンに1回は何かしらの展覧会に行っていたのだけど、コロナや仕事にかまけていたら、だいぶ足が遠のいてしまっていたようで反省。私のなかで夏といえば美術館(か映画館)ぐらいに行ってたのにな~。

今回見てきたのは宇都宮美術館の企画展示【芸術家たちの南仏】。現代美術には疎く、実はあまり期待してなかったのだけど、これが展示品も訴えるテーマ性も予想以上に良かった。

 

南仏の光を浴びているような刺激

歴史上、人は穏やかな気候、適度な雨と日の光を求めて生きてきた。

生きるうえでの作物のためであり、近世以降は使い勝手のいい港を手に入れ、外貨獲得による商業的発展のためだ(これが理由の一つで、過去も現在も争いは絶えないけれど…)。

ギリシャやイタリア周辺の地中海気候は、古来よりヨーロッパの人々にとっては「地上の楽園」として見なされている印象が強かったけれど、そこにはこの【南仏】も入る。

南仏はコート・ダ・ジュールプロヴァンスを指し、フランス語では<le‐midi(正午)>と呼ばれる。ずっと日中のような穏やかな気候に由来しているのかな。ちなみに地図で見るとモロ地中海エリア。

出展作品はこの南仏の陽光を想像させるような、柔らかくも刺激的な光をまとった作品たち。思わず「南フランス行きてぇ~~~!」と心の中で地団太を踏むテンションになってしまった。

 

集ったのは現代美術家だけじゃない

展示作品はマルク・シャガールポール・セザンヌアンリ・マティスパブロ・ピカソなど。

リトグラフや彫刻作品も多く飾られており、視覚的にも立体的で満足のある構成。キュビズム作品などは、まるでそこから動きだしそうな躍動感があったのも良かった。

けれどその中にも懐古主義というかルネサンス以降の作風を好み、柔らかい曲線美や色と色が滲むようなタッチで描かれた作品も多くあって、そんなところが古来より広く門戸を開き、人々の移動や物流の要であったこの場所のオープンな雰囲気を感じられてすごくよかった。

新進気鋭の現代作家と、それに影響を受けながらも自分の好みで作品を創り続ける作家たちが、文字どおりこの場所に【共存】していたのだ。感動。

 

追われていた作家たちの「協働」

今回、久しぶりに「美術館に行こう」と思ったきっかけが、章題にある“敵性外国人”というワードだった。

おりしも時代は1920年代~1950年代。第一次世界大戦終結第二次世界大戦を覆う、人類史上類を見ない、大戦の只中である。

そんな時代に南仏の陽光のイメージは、どんな印象をもって芸術家たちを迎えていたのだろうと思うと、俄然興味を魅かれた。

 

第二次世界大戦が勃発すると、「敵性外国人」として収容された芸術家たちや海外への亡命を求める者たちが、望むと望まざるとにかかわらずこの地に集まることもありました。

引用元:宇都宮美術館企画展「芸術家たちの南仏」紹介文

 

ドイツで活動していた青騎士(芸術表現サークル)たちや、自由意思をもった表現者ナチス・ドイツが許すわけもなく、彼らは“敵性外国人”として国を追われ、この南仏に辿り着いたらしい。

 

一方、自国フランスもこの時代は混迷を極めた時期である。

ナチスポーランド侵攻によりフランスはドイツに宣戦布告したわけだが、予想以上の早さで降伏を余儀なくされてしまう。

歴史上でも非常にショッキングなことだったわけだが(「あのフランスが…!?」という衝撃)、当時のフランス人たちの絶望はいかほどだっただろうか。

からくも南仏は自由地区として自治政府が認められたらしいが、当然親ナチス政府でなければ立ち行かない。

そんな自国から脱出しようと海外への亡命を求め、芸術家たちは南へ南へ南下していき、この地に集ったようだ。

彼らの目には、変わらずに輝くこの地の穏やかな日の光はどう映ったのだろうか。考えると胸が切なくなる。

フランス視点では映画『パリよ、永遠に』のような、主に北部の政府目線でしかこの時代を捉えていられなかったので、この視点は非常に考えさせられるものになった。

パリよ、永遠に [DVD]

 

youtu.be

渋いですが良い映画です。ドイツの名匠フォルカー・シュレンドルフ監督作品。

 

そして、時代の闇に追われていた彼らはこの地に集まり、ともに作品を創ることになる。

自分の技法や趣向と相手の思考を注意深く探り、ここで折り合いをつけようと線一本、色一色を配色する姿を想像すると、この時代特有の互いへの寛容、共生を感じられる作品には感動の一言だ。

作品そのものの価値というよりも、その作品の向こう側の空気や作家同士の温もりを感じられたようで、私にとってこのテーマは特別な鑑賞体験となった。

とくに、この現実を見つめ、時に逃避するために、みんなでトランプカードを「作った」エピソードには思わず涙がこぼれそうになってしまった(カードは複製展示で鑑賞できました)。

まさに、事実は小説よりも奇なり。映画よりも映画のようなワンシーンじゃないか。

 

夏、光。今このときに鑑賞する意味

                                                                                                         宇都宮美術館HPより

 

鑑賞日当日は入道雲が踊り真っ青な空が広がる、まさに「THE・日本の夏」と言える天気だった。

そんな日の光と南仏の光が重なり、そしてその裏側で確かにあった戦争の傷跡も、同じように私のなかで重なった。

 

日本の夏は楽しいが、悲しい。

たぶん、南仏も知れば知っただけ楽しく、悲しいものになるんだろう。

 

でも、知ることが出来て良かった。

久しぶりに訪れた美術館だったが、思いのほか刺激的で感傷的な鑑賞回となったので、今後また美術館ハイがめぐってきそうである。

夏はやっぱり美術館、なのだ。

 

 

▶追記

ひっそり公開tumblrリンク貼ってます。

beforedawnwitch.tumblr.com

なかなかブログにまとめられない音楽のことや、ちょっとした考察など、こちらで乗せてますので、興味のある方はぜひこちらも遊びに来てみてくださいませ~。

※カテゴリ分けできないのですが #今、好きな音楽 でサイト内を検索できるようになっています。

 

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ここまでお読みいただきありがとうございました!

今後もインドア趣味を中心に、楽しいことや学べることについて書いていきたいと思いますので、お時間があるときにおつきあい頂ければ嬉しいです♡

 

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